Dior and I

Ayaka Nishi | June 28 2015 | 0 Comments
ドキュメンタリー映画、「Dior and I」(ディオールと私)を見に行きました。
この映画は、2012年にクリスチャン・ディオールのオートクチュールの新任デザイナーとして
抜擢された、ベルギー人ファッションデザイナー、ラフ・シモンズの就任から
初コレクション発表までの様子を追ったドキュメンタリーです。




パリのメゾンの裏舞台は、一体どんな風な世界が繰り広げられているのだろう・・・という
好奇心から見たいと思った映画でしたが、ラフ・シモンズのディオールの歴史のプレッシャーに
押し潰れそうになりながら、ディオールの従来のスタイルを押さえつつ、新しい形を模索する姿、
その彼をサポートするスタイリッシュな周りのスタッフ達、ディオールのメゾンに長く務める、
寝る間を惜しんでドレスを作り上げる熟練の職人達の姿は思っていた以上に
心に響いてくる内容でした。





プレッシャーと戦いながらも、挑戦し続ける人の姿というのは、ファッション業界に限らず、アート界、
スポーツ界、ビジネスの世界、どの世界でもはやり魅力的だと思います。

しかし、この映画の魅力はそれだけに留まらず、美しいものをとことん追求し、それがオートクチュールドレスやショーの舞台という形になっていく過程も見る事ができるのでその点でも楽しめました。

ラフ・シモンズがポンピドゥーセンターを訪ね、好きな絵から着想を得て、テキスタイルデザインの
アイデアを出す様子や従来のディオールのスタイルを参考にし、
新しいものを生み出そうとする様子などは
彼がどのようにアイデアを発展させてコレクションを作り上げていくのかというプロセスを見る事が出来、
同じモノ作りをする立場から見ていてとても興味深い内容でした。

ショーの直前に白で作っていたドレスを急遽黒に変更しなくてはいけないという時に
なんと、スプレーで黒くぬりつぶすというシーンや、
ショーの当日の朝ぎりぎりにドレスを完成させるという状況には見ていて驚きました。

そして、ラフ・シモンズが「クリスチャン・ディオールの伝記を読んでいたら、だんだんとディオールの
偉大な歴史に自分が挑戦している事が怖くなってきて、伝記を読むのを途中でやめた。
初コレクションが終わってから、続きは読もうと思う。」と語る意外にも気弱な様子には
普段見せる自信がありそうなファッションデザイナーの表の顔とは別の
デザイナーの素の部分を捉えている様に思えました。

真面目で冷静な印象なラフ・シモンズとは対照的に、社交的な彼の右腕、ピーター・ミュリエー
の職人達とラフ・シモンズの橋渡しっぷりを見ていると、デザイナーがクリエイティヴな作業に
集中する為には、周りに理解のある良いスタッフがいる事が
いかに重要なのかという事もよくわかりました。
普段はヴェールに包まてているメゾンの裏側をここまで見れるチャンスはなかなかないので、
そういった意味でとても貴重な映画だと思いました。

ファッションショー当日、ドレス制作に関わった職人達が華やかな舞台を覗いて嬉しそうに見せる笑顔、
ラフが舞台裏でショー直前にプレッシャーのあまり不安の涙を流すシーン、
そしてショーがうまくいき、感激の涙を見せるシーンは、演技ではなく本当の人の感情を捉えていて、
ああ、ドキュメンタリーっていいなと改めて思いました。

頭の中にぼんやりとある美しいもののイメージが、はっきりと形になって現れた時の喜び。
それは、物を作る人にとってはかけがえのない瞬間です。
クリエイターならば、その感覚は一度味わうと、また味わいたいを思う、
麻薬の様に刺激的な感覚なのではないかと思います。
私自身もまた、どんなに工程が大変であっても、その努力が報われて
思い描いていた美しい形が生まれた時、
そしての作品が評価を受け、思いがけないない世界に繋がった時、
モノづくりの仕事をしていて本当に良かったと心から思います。

ディオールのメゾンいる彼らもまた同じような気持ちで仕事を続けているからこそ、
大変なプレッシャーの中、作り続けるのだと思います。






彼らのこれだけ仕事に対して情熱をぶつけている姿を見ていると、
情熱をもって努力し、何かを成し遂げる事こそ、生きている実感を感じられるのだと思いました。

人生は案外短い。時間はあっという間に過ぎてしまいます。
だからこそ、私達は限られた時間を無駄にせず、
情熱をもって思いっきり色々な事に取り組んでいくべきだと
改めて思わさせられる、そんな映画でした。